ベビーフェイスと甘い嘘

「可愛い人ですね……アカネさんは」


彼の柔らかな囁きが、熱い吐息が耳元で蘇る。


……私はその甘い記憶に蓋をして、またいつもの退屈な日常に戻る。



***

「茜さん『Happiness(ハピネス)』はどうでしたー?」


「なかなか良かったよ。山の上だから景色もいいし、建物も新しいから綺麗だし、お料理も結構美味しかった」


朝の9時。
通勤時間を過ぎたコンビニの店内は驚くほど暇になる。


ここは全国チェーンのコンビニエンスストア、サンキューマートの羽浦(はうら)駅前アーケード店。


私はここでパートとして働いている。
今年で3年目。新しく覚える仕事も少なくなり、かなり手を抜くことも覚えてきた。


この時間帯はレジの中で売っているタバコやレジで使う備品なんかを補充しながら、ちょっとだけお喋りを楽しむ。


女子が多い職場なんてこんなもんだ。
……30歳を過ぎてる私は、女子ではないんだけどね。


お喋りの相方は相沢初花(あいざわ はつか)ちゃん。彼女はこのお店の副店長で、昼までのシフトで店に入る私は初花ちゃんと組んで仕事をする機会がいちばん多い。



今日の話題は、私が先週の土曜日に出席した結婚式の式場の話だ。
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