ベビーフェイスと甘い嘘
「茂木は他にやりたいことがあるんだから、卒業してもバイトで食い繋ぐだけで充分だろ。九嶋は……あいつはよく分からないな。仕事はできるし、何でもソツ無くこなすけど……だけどやる気がないヤツは社員には向かない」
「じゃあ私は社員に向いてるの?」
「柏谷さんは……仕事はきちんとこなすけど、馴れ合わないで一線を引いてる所が九嶋と似てるって思ってた。だけど最近は前よりもスタッフとも関わるようになってきたし、試しにレイアウトをやらせてみたら相沢よりもうまかった。それだけで社員に推す価値は充分にあると判断した」
「まぁ……人には得手不得手があるから、社員になっても、例え茂木が辞めたとしても、ポップだけは絶対に任せない。以上。他に何か質問は?」
最後は軽く嫌みが入っていたけど、私が今までの自分を変えようと思ってから仕事も人間関係のことも一生懸命にやってきたことを、目の前のこの人はちゃんと見てくれていた。
それだけで、店長のことを信じる気持ちにはなれた。
しかし……
「勿体ない」
思ったことが思わず口から漏れた。
「あぁ?何が勿体ないんだよ」
「もっとこうやってスタッフ一人一人に目を配ってますよ、って所を見せればもっと慕われるのに。クールな人には人望は付いて来ませんよ。店長」