ベビーフェイスと甘い嘘
だから、それなりの覚悟をしてこの場所に来たつもりだった。
たぶん夏祭りの時の事を聞きたいんじゃないのかな……
もう奈緒美ちゃんは退職している。いくら千鶴ちゃんでも、奈緒美ちゃん本人にわざわざ聞くのは躊躇ったのだろう。
でも、私だって奈緒美ちゃんと九嶋くんの間に何があったのかなんて知らないんだけどな……
聞かれても話せることなんてないなぁ……
ぼんやりとそんな事を考えていた私に向かって、千鶴ちゃんは全く想像もしていなかった言葉を口にした。
「茜ちゃんさー、奈緒美ちゃんの結婚式の日に途中で帰っちゃったじゃない?」
「……でもさ、真っ直ぐ家には帰ってないよね?……ほんとは誰と一緒にいたの?」
……………えっ?!
心臓がドキンと跳ねる。
アイスコーヒーを飲もうとストローにかけていた手に、グッと力が入ってしまった。
奈緒美ちゃんの結婚式からもう3ヶ月経った。今更こんな質問をされるとは思ってもみなかった。
「だっ、誰って?……具合が悪くなっちゃったから先に帰ったんだよ……LINE送ったでしょ?」
……私はこの人の性格をよく知っている。
ちょっとでも気になったことは、とことん突き詰めなければ気が済まない。その追求をかわすのは至難の技だ。
とにかく、動揺しているのがばれないように慎重に言葉を繋げなくては。