ベビーフェイスと甘い嘘
「奈緒美ちゃんの結婚式の頃は、そんな不安とか哀しみで頭がいっぱいでもうどうしようもないくらい苦しい時だったから、千鶴ちゃんや裕子ちゃんと久しぶりに会えて凄く嬉しかった。だけど、結婚式に行ったら余計苦しくなっちゃった」
「奈緒美ちゃんは……昔の私と似てるなって思ったの。結婚式に向かう途中の車の中で奈緒美ちゃんの話をしたでしょ?産休を取らないで辞めて『ウサミ』を手伝うんだって。……あぁ、奈緒美ちゃんも一緒なんだって。子どもができて、好きだった仕事を辞めなきゃいけないんだって、そう思っていたの。……でも、結婚式では凄くしあわせそうだった」
「私ね、そんなしあわせそうな奈緒美ちゃんを見ていたら『おめでとう』ってどうしても言えなかった。……どうして私はここにいるんだろう?って、ずっと思ってた。私達は似ているはずなのに、何でこんなに違うんだろうって。奈緒美ちゃんは旦那さんに愛されていて、みんなから祝福されながらお腹に子どもがいるのに、結婚式も挙げることができるなんて……って。私は子どもができてお義母さんに散々みっともないって詰られて、修吾も庇ってくれなくて、結婚式どころか写真も残せなくて……。どうして私だけがこんなに苦しいんだろうって……」
「茜ちゃん……」
「八つ当たりみたいな醜い嫉妬だっていうのは、自分でも分かってるの。だから最初は酔ったふりをして時間を潰して、ちゃんと覚悟を決めてまた戻ろうって思ってた」
「その時にね、直喜が私に声を掛けてきてこう言ったの。……あなたは、この『しあわせ』な空間から逃げたいんじゃないかって。自分も同じだから分かるって。だから私、直喜と逃げたの。……もうあの場所には戻りたくないって思ったから」