ベビーフェイスと甘い嘘

いたたまれなくなって『しあわせ』の空間から逃げ出した時、私は直喜と出会った。


直喜がどうしてあの場所にいたのか、どうして私に声をかけたのか、あの時は分からなかったけど……


でも彼も私と同じ気持ちだと……『しあわせ』から逃げたいと言った。


あの時の私の気持ちは、誰に言っても理解してもらえないだろう。


……直喜以外の人には。


直喜は私じゃなくても良かったのかもしれない。けど、少なくとも私は誰でも良かった訳じゃない。


暗闇の中で、一筋の光を見つけたようだった。


『一緒に逃げちゃおうよ』


そう言われた瞬間に、私の心は満たされた。


あの時、直喜は私の気持ちを理解してくれる唯一の人だった。


『私を見て』


『分かって』


『必要として』




それは、心の中でずっと渇望していた想いだった。



間違っている事だと分かっていた。



……でも想いを遂げたかった。



そして私は、彼の差し出した手を取った。

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