ベビーフェイスと甘い嘘
そんな私を見て千鶴ちゃんはため息をついた。
「私は……このまま直喜くんの事を好きになっても、茜ちゃんが辛い思いをするんじゃないかなって思う」
「……どうして?」
「すぐに噂を立てられたりやっかまれたりするでしょ?それに噂を立てられるだけじゃ済まないかもしれないんだもの。茜ちゃんは耐えられる?……一緒に歩いていただけであんなに『ウサミ』で噂になるのに」
「千鶴ちゃんも知ってたんだね。噂のこと」
「あのねぇ……この辺じゃ茜ちゃんみたいに一度も『ウサミ』に行ったことが無いって人のほうが珍しいのよ。ましてや、私みたいに自炊をしない独身女はどっぷりよ」
『週3は通ってますかねー』と笑いながら言っていた初花ちゃんの顔を思い出した。
「……あと、直喜くんには他に想っている人がいるかもしれないよ」
千鶴ちゃんの気まずそうな表情を見て、直喜を好きだという気持ちを認めずに心の底でブレーキをかけ続けてきた自分の気持ちに、嫌でも気づかされた。
「大丈夫。……それは私も分かってるから」
私のその言葉にちょっとだけ驚いた表情を見せた後で、やがてゆっくりと千鶴ちゃんは話はじめた。
「まぁ、普通は分かっちゃうよね。……直喜くんが帰って来てからずっとね、奈緒美ちゃんのことを直喜くんが送り迎えしていたの。双子の妊婦で何があるか分からないって言っても、さすがに心配しすぎじゃない?それにね、休みの日に二人きりで買い物してるのを見た事もあったのよ」
「いくら久しぶりに帰って来たからって、旦那の弟と旦那抜きであんなに仲良くできるもんなの?って驚いたし、正直二人の仲も疑っちゃうくらいべったりだった」