ベビーフェイスと甘い嘘

「仕事が終わったら送るからな。喫煙スペースで待ってる」


話が終わった後、店長は溜まった仕事を片付けながら私のシフトが終わるまで待ってくれていた。


初花ちゃんは朝から通しで夕勤までのシフトだ。怪しまれないよう素早く帰り支度をして店を出た。


「……久しぶりにここにいるの見ました」


私の言葉に、店長は微妙な顔をしていた。

店舗の外で店の奥側にあたる位置にある、この喫煙スペースは、店長にとっては常連さんや女性客につかまってしまうのでゆっくりと寛げる場所ではないらしい。

店内のフライヤーの換気扇の下でこっそりタバコをふかしては、いつも初花ちゃんに怒られている。

今日もあっさり常連さんにつかまっていた。お待たせしましたと言ったほうがいいんだけど妙な誤解をされたら困る……


「よう、茜ちゃん。樹ちゃんと待ち合わせして、でーとでもするのかい?」


話しかけてきたのは、常連客の源さんだ。源さんは初花ちゃんの実家の御近所さんで、初花ちゃんとは本当のおじいさんと孫のように仲良しだ。


こんな風に人の色恋を構いたがるのは悪い癖だけど、それを抜かせば常連面をする人が苦手な私でも話しやすいと感じる、気さくな性格のおじいさんだ。
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