ベビーフェイスと甘い嘘

「私が店長とデートしてもいいんですか?初花ちゃんがいるのにマズイでしょう」

「……おい」

「樹ちゃん……確かに茜ちゃんはとっても魅力的だけど、初ちゃんには他にいいとこがいっぱいあるから。だからがっかりしないでやってくれよ」


一見とても良いことを言っているようだけど、『魅力的』と言いながら、その両手はしっかりと胸を押さえていた……


……前言撤回!

気さくじゃなくて、ただのセクハラじーさんだ。


「……源さん、そんな事ばっかり言ってると相沢に嫌われますよ。さ、行くぞ」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ」

さっさと歩き出した店長の後を慌てて追いかける。


「げ、源さんに妙な誤解されたらどうするんですか!」

「柏谷さんは人目を気にしすぎだ。言いたいヤツには言わせておけ。後ろめたい事が無いんだったら、堂々としてろ」


『後ろめたい』か……


人目を気にしてしまうのは性格もあるけど、あんな手紙一つで不安になってしまうのは、後ろめたい事なんて何も無いとはっきりと口にする事ができないからだと思う。


「本当に怖いのは話が通じない人だ。……あんな手紙をわざわざ跡をつけてポストに入れるような奴は何をしでかすか分からない。しばらく店に来る時も車を使ったほうがいいんじゃないか?」


コンビニがあるアーケードの中は、車で通ることができない。

マンションのある通りには商店街を抜けたほうが近いのだけど、犯人が分かるまでは徒歩は避けたほうがいいってことらしい。


「……店長って以外と優しい人なんですね」

「以外と、は余計だ」

「今回の事で初花ちゃんに誤解されたら、私がちゃんと説明してあげますね」

「必要ない」


そう言って横を向いた店長だったけど、その耳は少しだけ赤くなっていた。

いつもの私だったら弱味を握った!と喜ぶところだけど、そんな正直に反応されたら、からかうどころかかえって応援したくなってしまった。


嫌みったらしくて人の心を見透かすようで、人間味すらない人だと思っていたけど……実は結構優しくて正直な人なのかもしれない。

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