ベビーフェイスと甘い嘘
『話が通じない人』と聞いた時、一瞬頭の中に修吾の顔が浮かんだ。
正直な気持ちを伝えようとしても言わせてもらえず、話すきっかけさえ持とうとしてくれない。
だからと言って、平日の日中わざわざ忙しい合間を縫って私に嫌がらせをするとも思えない。
営業職だった昔と違って、今は会社から出る余裕だって無いはずだ。
『ウサミ』で噂を流すことだって女性じゃないと難しいだろうし。
そこまで考えた所で行き詰まって、私は考えることを止めてしまった。
私だって忙しい。今は新しい生活に慣れるだけで精一杯で他の事を考える余裕が無い。
話が通じない人は、何をしでかすか分からないから気を付けろ。
そう言われたのに、心当たりは無いと決めつけて、ちゃんと考えることをしなかった。
余裕が無いと自分に言い訳をして深く考えなかった事を、次の日すぐに後悔することになるなんて思いもしなかった。