ベビーフェイスと甘い嘘
……楽になりたいと思わない?
ーーーーバシッ!
カシャン……
眼鏡が床に落ちた音がする。
真ん中から折れてしまったその赤色の眼鏡は、間違いなく私の物だった。
オーバル型のセルフレームの眼鏡は、結婚した頃柔らかいフォルムに一目惚れをして衝動買いをし、大切に使っていたものだ。
無惨にも折れてしまったお気に入りの眼鏡を、私はただ呆然と見つめていた。
そんな私を見て、彼女は普段色白な顔を真っ赤にして怒りに震えながら言い放った。
「何で?どうして叩かれなくちゃいけないの?って顔してるんですか?何様ですか?!」
目の前の事だけで頭が一杯になっていたけれど、その言葉でこの人に私はなぜかいきなり叩かれたんだとようやく理解した。
……いきなりあなたから平手打ちをされてもしょうがない事を、私はしたっていうの?
わざわざ彼女がこんな朝早くからコンビニへ来て……こんなに怒っている理由が全く分からない。
「ねぇ……奈緒美ちゃん。私、あなたに何かしたの?」
その言葉がますます火に油を注ぐ事は分かっていたけど、言わずにはいられなかった。
奈緒美ちゃんの綺麗な顔が、怒りで歪む。