ベビーフェイスと甘い嘘

「何の騒ぎか知らないけど、店内で話せる話題じゃ無さそうだな」

フライヤーに立っていた店長まで騒ぎに気がついて、いつの間にか店舗の方へと戻って来ていた。


店内のお客さん達もレジには来ていなかったけど……遠巻きに眺められていることに気がついて、慌てて眼鏡を拾い上げた。


「店長の相澤です。宇佐美さんこちらへどうぞ。狭い所ですけど」


「……なっ、何で私の名前っ!」


「この辺の人だったらみんな知ってますよ。だからあまり騒ぎになるようなことは控えたほうがいいと思います。『ウサミ』のお嫁さんだったら、ここで悪い噂が立ったらお店でどうなるかは……想像がつきませんか?」


「コンビニだって、お客様が来ないと困りますからね。いいお客様でも、噂話を吹き込むような悪いお客様でも」


「それって私の事を言ってるんですか?!」


「……宇佐美さん。さっき加賀谷さんが店をのぞいてるのが見えましたよ。加賀谷さん、『ウサミ』にも行ってるはずですから、知ってますよね?加賀谷さんが友達を連れてまたのぞきに来たりしたら、ますます話が広まるでしょうね。その前に奥に行って話をしたほうが賢明だと思いませんか?」


有無を言わせぬ口調でそう言うと、スタッフルームの扉へと促した。


加賀谷さんとは毎日のようにコンビニにコロッケを買いに来るおばちゃんだ。

噂好きの話し好きのおばちゃん達に目撃されてしまったら、確かにあっという間に話は広がってしまうだろう。


「俺がレジに立つから、時間は気にしなくていい。色々誤解もありそうだから、一回ちゃんと話し合ったほうがいいな」

店長の言葉にうなずいて、私達はスタッフルームへと入って行った。
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