ベビーフェイスと甘い嘘
「はい。こんなものしかないけど、どうぞ」
椅子を勧めながら奈緒美ちゃんの前にインスタントのコーヒーを置く。お店のコーヒーだとカフェインが気になるからと私が自分で用意していたノンカフェインのものだ。
「すみません」
冷ややかな軽蔑の眼差しは変わらず向けられているものの、奈緒美ちゃんはお礼の言葉を口にした。場所を変えたことで、少しだけ冷静になったのかもしれない。
よかった。あまり興奮したままだと身体によくない。
確か予定日は11月の頭だったはずだけど、もうお腹は臨月に見えるくらい大きくなっていた。
「あのね……申し訳ないんだけど、奈緒美ちゃんが怒ってることに本当に心当たりが無いの。だからどうしてここに来たのか、何を知ってるのか教えて?」
まずはここをきちんと確認しないと話ができない。
「さっきからそればっかり。智晶ちゃんに知られたくないから?……狡いですね」
「はぁ?何言ってーー」
「大丈夫。……奈緒美ちゃん、教えてもらってもいいかな?」
何か言いかけた九嶋くんを止めて続きを促すと、彼女は長いため息をつきながらようやく話し始めた。
「……お店で噂になってるんです」