ベビーフェイスと甘い嘘

「お店って『ウサミ』での噂?」

「茜さんはうちの店になんて来ないから、噂になってるのは知らないですよね?」


『うちの店になんて』という言い方が引っ掛かったけど、あえて触れずに話を進めた。


「知ってるよ。確かに私は行ったことがないけど、妹はよく買い物に行ってるみたいだから。噂って私が翔と直喜……くんと一緒にいたって話だよね?」


「あの日はね、九嶋くんだけじゃなくて、私の妹と妹の子どもとも一緒に花火を見に行ったの。妹は九嶋くんと一緒にいたはずの私が、どうして直喜くんと噂になってるのか不思議がってた。でもそれは私達を送ってくれただけだって……奈緒美ちゃんなら知ってるでしょ?」


だから、多少事実と違うことがあっても、芽依が聞いた程度の噂が耳に入っただけなら、奈緒美ちゃんがここまで怒る理由は無いはずなのに。


「確かにそうですけど……ほんとに直喜ちゃんとは何も関係ないんですか?直喜ちゃん、ここによく来てるんですよね?」

「私の結婚式が終わった辺りから、直喜ちゃん変わっちゃったから。……それまでずっと私のことを一番に考えてくれてたのに、何か冷たくなっちゃって」


「……夏祭りの日だって勇喜が仕事だから一緒に行こうって言ったのに……『裕子さん達がいるから大丈夫じゃない?』なんて言って渋るし……なのに茜さんのことは送って行くって言い出すし……ただ送って行ったにしては帰りも遅かったし……」


ぶつぶつと文句を言う奈緒美ちゃんを、少しだけ呆れた気持ちで眺めてしまった。


……まるで子どもの我儘じゃない。


奈緒美ちゃんの話は、お気に入りのおもちゃをしっかりと握っているのに、他のおもちゃも自分のそばに置いておかないと気が済まない。


そんな子どもじみた嫉妬のように聞こえた。
< 339 / 620 >

この作品をシェア

pagetop