ベビーフェイスと甘い嘘
どうして、私の事を見てくれないの?
目を合わせてもくれないの?
奈緒美ちゃんには、知られたくなかった?
さっきは奈緒美ちゃんに子どもみたいな嫉妬をしてって思ったのに、ほんとに我儘で嫉妬深いのは私のほうかもしれない。
『私のほうを見て』って言いそうになった。
奈緒美ちゃんに大切そうに触れるその手を見たら、『放して』って叫んでしまいそうになった。
直喜の態度や言葉にいちいち傷ついて……それでも好きだって思ってしまう。
そんな情けない自分が大嫌いだ。
***
「ねーさん、頬っぺた大丈夫?……唇も、あんまり力入れてると腫れちゃうよ」
無意識に唇を噛み締めていたらしい。
少しだけ緩めると、目の端にじわりと涙が浮かんだ。
……大丈夫じゃないよ。
分かってるくせに、意地悪だね。
「仕事、変わろうか?」
心配そうに掛けてくれた言葉に、私は静かに首を横に振った。
……何言ってるの。いい年して、ちょっと叩かれたくらいで……ちょっと心が傷ついたぐらいで仕事を休める訳ないじゃない。
「いいよ。……化粧で隠せば大丈夫でしょ」
前に九嶋くんからもらったファンデーションを化粧ポーチから取り出しながら、ぐっと涙を堪えて、私は無理やり笑顔を作った。
痛々しい笑顔かもしれない。
それでも弱音を吐きたくないし、泣きたくなかった。