ベビーフェイスと甘い嘘
「貸して。塗ってあげる」
九嶋くんが私の手からファンデーションを取り上げた。
「あー……赤くなってる。これ、後でちゃんと冷やしとかないと、また腫れるよ」
「……っ」
そっと触れられたはずなのに、痛みが走って思わずギュッと身体が固くなる。
この前ほどでは無かったけど、頬と叩かれた時に眼鏡が当たったこめかみの辺りが熱を持ったように痛みだしていた。
「ごめん、痛かった?……叩かれて大丈夫な人なんていないでしょ。強がっちゃって」
……だって、強がらないと立っていられないんだもの。
口に出せなかったその言葉を察したように、九嶋くんはやれやれ、と言った表情で苦笑した。
「ねーさんは嘘つきだね。ほんとの事を口に出して他の人を傷つけたくないから、自分の心を騙してばっかり。……でもさ、それって凄く苦しいでしょ」
「誰も傷つけないようにって、いつも自分が傷つくほうを選んでる。傷ついてるくせに傷ついてないって思いこんでるから、見てて痛々しい」
「心の傷はこんな風に塗って隠せないよ。分かってるよね?」
「……九嶋くんも同じようなことを言うのね」
「誰に言われた?ってのは……まぁ、聞かなくても分かるけど」
ほらできたよ、と九嶋くんは私の肩をポンと軽く叩いた。
何だか『がんばれ』と言われているような気がした。
九嶋くんのさりげない優しさに堪えた涙がまた零れ落ちそうになったから、「……ありがと」とだけ言って、私はその場から逃げ出すように店舗のほうへと戻って行った。