ベビーフェイスと甘い嘘
「柏谷さん、ぼんやりすんなよ。……あんたはこっち」
呆れた口調で話す店長に手招きされるまま、リビングの端にあるデスクの前に腰かけた。
ぼんやりするなと言われても……お腹も空いたし、何のためにここに呼ばれたのかも全く分からない。ぼやっとしてたんじゃなくて、考え込んじゃったんじゃないの。
それに今日は……色々あったんだから。
自分の事でいっぱいいっぱいになってしまっていた私は、目の前にいるこの男が人の気持ちを見透かしてしまうヤツだという事をすっかり忘れてしまっていた。
「何があったんだ?……って、その顔じゃ聞かなくても分かるな。早まったな、あいつ」
……早まった?
意味が分からず困惑する私に構わず、さらに店長は言葉を続けた。
「傍から見てたら、ずいぶん分かりやすかったからな……別に隠そうともしてなかったし。柏谷さんはそれどころじゃなかっただろうから、気がつかなかったのも無理は無いか」
「……まぁ何で今のタイミングなんだよ、とか突っ込みたい所は色々あるけど。落ち着いたら、ちゃんと考えてやれよ」
『ちゃんと考えてやれ』
そこまで言われて、やっと九嶋くんの話をしているのだと気がついて、頬が熱くなった。