ベビーフェイスと甘い嘘

「どっ……どうっ……」


「何だよ、どうどうって。馬か?」


真っ赤になって動揺している私を、店長はニヤニヤと笑いながら見ている。


「どうして分かった?って言いたいのか?……いつもだととっくに帰って来てるはずの時間に電話しても出ない。出かけてるのかなと思ったら、明かりが点いてる。チャイムを鳴らしても出ない。やっと出て来たと思ったら……ふっ。ははっ」


そこまで言うと吹き出すように笑った。


この人、こんな笑い方もするんだ……


って、そうじゃなくて!


「……出て来たと思ったら何なんですか」


「……ふっ。だってさ、エプロンを裏返しに着けたままで出てきただろ?だっさい黒ぶち眼鏡も掛けっぱなしだったし。料理中で電話に出られないのかと思ったらずっとトントン切ってるだけだったって翔くんは言ってるし。普通途中で気がつくもんだけどな……あんだけ細切れになってりゃ。おまけに指まで切ってるし」


「……な?『こいつ何かあったな』ってバカでも分かるだろ」


「……悪かったわね」


そこまでおかしかった自分もどうかと思うけど、こんな失礼なヤツに、もう敬語を使う気にもなれない。


「それにしてもちょっと言い寄られたくらいで動揺しすぎだろ。中学生か?いや、小学生だってもっと進んでるだろ。それとも……俺が想像してるよりも、もっと凄い事が起きたのか?」


「……で?実際どうなんだよ」


「『やっぱり』ヤったのか?」


つい先日……一瞬でもこの人の事を優しい人だと思ってしまった自分を殴りたい。
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