ベビーフェイスと甘い嘘
確かに帽子を被っているし、この人は一度も顔を上げていない。
防犯カメラがどこに付いているのか確認した上で、手紙を入れに来たのだろう。
それに、封筒を持つ手にはハンカチも一緒に握られていた。
「映像が保存されてるのは二週間分。他の画像にも、顔が映ってるのは無かった。……たぶん、封筒からじゃ犯人は探せないだろうな」
封筒にも指紋が残らないようにしているほどの抜け目の無さだ。たぶん中身も同じだろう。それには店長も気がついていたようだった。
「防犯カメラの映像、全部確認してくれたのね……ごめんなさい。忙しいのに」
「いや。確認したのはオーナーだから」
翔と一緒にオムライスを頬張っているオーナーを見ると、ニコッと笑ってウィンクを返してくれた。
ありがとうございます、と頭を下げて画像に目を戻す。
確かに目深に帽子を被ったその人の顔は見えないけど……仕草や立ち振舞いには確実に見覚えがあった。
スキニーパンツにカットソーを合わせただけのシンプルな服装なのに、はっきりと分かるスタイルの良さ。
私より年下だと思えないくらい、大人っぽくて美人で……
どんなに服装や髪型やメイクを変えても、ベビーフェイスな自分は彼女のようにはなれなかった。
近づこうと努力をする事さえ考えられないほどの美貌を持った彼女。
彼女の事をずっと嫉妬と羨望に近い眼差しで見ていた私だから……帽子を被っていても、顔が見えなくても『彼女』の事を分からない筈がない。
「……灯さん」
今まで感じていた得体の知れない悪意が、彼女の形となってはっきりと目の前に現れたような気がした。