ベビーフェイスと甘い嘘

「アカネさんを知ってたのも、偶然だよ。俺、今月からウサミで働きはじめて、配達の途中にコンビニに寄ってたんだ」

「式場で最初にアカネさんを見た時、何か見たことある人だなー、誰だったっけ?ってずっと気になってたんだよね」とナオキは言った。


そっか。気になってたから私達の会話が耳に入ったんだ。たぶん名前も。


コンビニで付けている名札は片仮名で苗字だけのものだ。お客さんに名前を呼ばれるのは嫌なので、スタッフの人以外にはなるべく名乗らないようにしていた。


あの日「カシワヤさん」と呼ばれたのなら、あんなに驚くことは無かった。思いがけず名前の方を呼ばれたから、動揺してしまったのだ。


「アカネさんって、あんまりお客さんに関心持たないタイプだよね」


「話しかけてくる人以外は常連さんでも会話はしないし。誰とでもフラットに接してるけど、その代わり特別な人も作らないし、覚えない」


ナオキの言葉に私はギクッとした。確かにその通りだった。


常連顔をする人が苦手だった。でも、そういう人は大抵初花ちゃんが対応してくれていた。私は会話どころか、人の顔を覚えるのも正直苦手だ。
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