ベビーフェイスと甘い嘘
「愛してる」って言ってよ
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平日の午前10時。
『pastel』での待ち合わせ。
私がここで待ち合わせているのは、今から誰にも聞かれたくない話をするからだ。
ここに来る事ができる人は、
私や千鶴ちゃんのように平日に仕事が休める人か、
九嶋くんのように夜勤の仕事をしている人か、
直喜のように自営業で、ある程度自分の自由に時間を調整できる人か……
奈緒美ちゃんや芽依のように専業主婦で小さい子どもがいないか、産まれる前か、保育園や幼稚園や学校に通っている子どもがいる人だ。
「お待たせ。珍しいね、茜さんから声をかけてくれるなんて」
にこやかに手を振りながら店内に入ってきた彼女も……
離婚してシングルマザーにはなったけど、元の旦那さんから養育費の他に生活費までもらって仕事はしていないようだと、親戚の人達の噂話で聞いていた。
「灯さん久しぶり。……って言えばいい?私はこうやって会うのは久しぶりだと思ってるんだけど、灯さんは私の知らない所で私の事を見たり、後をつけたりしてたから久しぶりに会った感じは無いのかな……どうなの?」
呼び出されたのは、仲良くお茶をするだけなんて思っていなかっただろうけど、まさか席に着いた途端に本題に入るとも思っていなかったのだろう。
にこやかに笑っていた彼女の表情が、強張ったのがはっきりと分かった。