ベビーフェイスと甘い嘘
「えっ、えっ!?後をつけたって何の事?……いきなり何?もぅ、びっくりしたー!」
取り繕うように笑いながら話すその表情にだって、はっきりと焦りの色が見えている。
私だったら、誤魔化しきれると思ってる?
……馬鹿にしないで。
「灯さん。私ね、マンションの防犯カメラの映像を見たよ」
話を切り出すと、彼女の顔からそれまでの取り繕うような笑顔が消えた。
「ポストに入ってた手紙やコンビニへのクレームの電話で、私だけじゃなくてお店にも迷惑がかかってるから、マンションの管理人さんに見せて下さいって頼みこんだの」
「出るところに出ても、私は構わないと思ってる」
***
防犯カメラの映像を確認した時に、店長には彼女の事と、私との関係を説明していた。
修吾との関係は言わなかったけど、話の流れで何となく察したらしい。
私の話を聞いて、妙に納得したように店長は口を開いた。
「……なるほどな。こんなめんどくさい嫌がらせを何でやってんのかってずっと思ってたけど、ようやく分かった」
「クレームの電話もメールも達は悪かったけど訴えるくらい酷いものでもなかっただろう?柏谷さんの予想した通り、このアカリさんって人が全部したことだったとしたら、手紙を入れるのを止めたのもさ、迷惑だなって、気持ち悪いなって感じる程度で抑えたかったからなんじゃないのか?」
「それって、誰がやってるのか本気で調べられたらまずい立場のヤツだからだろ?……手紙にも証拠を残さないように気をつけてたみたいだしな」
それに、『ウサミ』で噂を流したり、奈緒美ちゃんに私が浮気をしていると吹き込んだのも灯さんだとしたら、彼女は何度も手口を変えながら私に嫌がらせを繰り返している事になる。
……どうしてこんな事を。
顔を曇らせた私とは逆に、店長はニヤリと笑った。
「だけど、これで証拠が掴めただろうが。この人は、柏谷さんがこの映像を見るとは思ってなかったんじゃないか?念のため、って感じで顔だけは映らないようにしてるけどな」