ベビーフェイスと甘い嘘
灯さんは、私の質問には答えなかった。
怒りや焦りの表情は消えて、代わりにいつものように私を馬鹿にしたような、含みのある笑みを浮かべながらゆっくりと口を開いた。
「私、今お腹の中に子どもがいるの」
「…………え」
「もう五カ月目に入るの。翔くんには悪いけど、この子を父親のいない子どもにしたくはないのよ。……私が言ってる意味が分かるよね?茜さん」
嘘……
そっとお腹に手を当てながら、灯さんは一気に勝ち誇ったような表情を見せた。
紅い口元をぐいっと吊り上げて笑ったその顔に、
『やっぱりやましいことがあるんだな』と言いながら、私に覆い被さってきた修吾の顔が重なっていく。
『灯のことだって……愛してるからどうだって言うんだ?』
『お前はどうなんだ?どうせ、そいつと寝たんだろ?』
……気持ち悪い。
じわじわと、不快な感情が心の奥底から滲み上がって来るようだった。
開き直って、灯さんを愛してるって言って、私の事は不実だって決めつけて……全部お前が悪いんだって、あんなに私を責めたくせに。
「ショックだった?……ふふっ。頑張ってたのに可愛そうね」
「修吾くんの子どもを産むのはあなたじゃないの。分かったら、修吾くんとさっさと別れなさい」
「……っ」