ベビーフェイスと甘い嘘

「こんな所で会うのが珍しいって……それ言いたいの、こっちなんだけど」


直喜はそう言いながらすとん、と隣に腰を下ろした。


いつもだと自然に身体が触れるほど近づくくせに、今日は少しだけ離れた場所に座っている。


あえて距離を置かれているように感じて、ますます気持ちが沈んでいく。


「俺はよくここに来てるよ。ここは日陰だし、涼しいし。朝は散歩してる人が多いから賑やかだけど、昼は静かだし。配達の途中で休むのにはちょうどいいんだよ」


「……この前は奈緒ちゃんがごめんね。叩かれたんだよね?大丈夫だった?」


直喜は、確かめるように私の頬に手を伸ばそうとして……何故か躊躇うようにその手をすっと下ろした。


やっぱりこの人は私に触れる事は無いのだと、私を求める事は無いのだと……思い知らされる。


「で?茜さんは此所で何をしてたの?……また仮面みたいな笑顔をしてさ」


『仮面』という言葉が胸に突き刺さる。だけど、そう言った直喜のその笑顔も、何だかぎこちのないものに見えた。


「何って……私も久しぶりにここに来てみたの。ちょっと時間があったから、昔みたいにのんびりしようかと思って」


「……ここね、お気に入りの場所だったの。まさか直喜に会うとは思わなかったな」


『仮面』だと言われた言葉には触れず、直喜の心配も聞こえなかったふりをして、話をつないだ。


今だけは、直喜に正直な心を見せたくなかった。


……お願いだから踏み込まないで。



「……何だよそれ、どうして嘘つくんだよ」


話を逸らしたことが気に入らなかったのか、直喜は眉間に皺を寄せて不機嫌な表情になった。


「お気に入り……違うよね?茜さん、図書館辞めてから此所にこうやって来たことあった?……無いよね。わざわざ来るなんて、何かあったからなんじゃないの?」



「今だって、本当はさ……此処に泣きに来たんじゃないの?」



踏み込まないで欲しいのに…


直喜はいつもいつも……私の本心に触れてくる。
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