ベビーフェイスと甘い嘘
愛されなくてもいい。壊したくないから、家族にも、好きな人にも嘘をつき続ける。
そう思っていたはずなのに、とっくに愛する事を、信じる事を諦めたはずの修吾にいちばん酷い形で裏切られていた事が、哀しくてたまらない。
自分だって家族に言えない秘密を抱えて、心はとっくに家族を裏切っていたというのに。
直喜との事だって、最初は割りきった関係から始まった。
だけど会う度に甘えて泣いて、挙げ句の果てに好きになってしまうなんて……面倒な女だと思われても仕方ない。
***
二人の間に長い沈黙が落ちた。
もう優しい言葉すら、かけてもらえないかもしれない……
そう思っても立ち去る事もできず、項垂れたままの私に直喜が近づく気配がした。
膝に置いて固く握りしめていた私の手を丸ごと包み込むように、あたたかな温もりが広がっていく。
久しぶりに触れたその手の感触は、泣き出しそうなほど優しかった。
『どうして……触れるの?』
言葉に出せない疑問を視線に乗せて、尋ねるようにそっと顔を上げた瞬間……
真っ直ぐな視線に射ぬかれて、囚われて目を逸らせなくなってしまった。
「茜さんが望むなら、いつでも助けるよ。心が溺れて苦しいならその苦しみごと引き上げて……俺があなたのことを救うから」
直喜の表情は少しだけ固く、瞳は何かを決意したように真摯な光を宿しているように見えた。
「だから、俺を選んで」
どうして私が……あなたを選ぶの?
あなたは、とっくに他の人を選んでいるのに。
「選ぶって何?……私はどうすればいいの?」
「一言でいい。俺のことを『愛してる』って、そう言ってよ」