ベビーフェイスと甘い嘘
「直喜……」
その真剣な眼差しに、心が揺れる。
このまま『愛してる』と言えば……あなたにこの溺れそうな心を救ってもらえれば……
私はしあわせになれるの?
……違うよね。
しあわせになんか、なれない。
もう同じ過ちは、繰り返したくない。
私は目を逸らして、そのまま力なく首を横に振った。
「…………愛してない」
「茜さん……」
何か言いかけた直喜の言葉を遮るように、私はその言葉を伝えた。
「直喜は、嘘つきだね」
「……えっ?」
「私に近づいて、興味のあるふりをして……心の中ではずっと他の女(ひと)のことを愛してる」
あなたも……修吾と同じ。
だから、ほんとうの気持ちに気がつかないふりをしてあなたの側にいたって、また同じ過ちを繰り返してしまうだけだ。
「あなたが愛してるのは、奈緒美ちゃんだから」
「だから……私はあなたを選ばない」
あの日の私と同じように『しあわせ』が我慢ならないと言ったその理由を、私は知っている。
「あなたがいつも嘘をつくから、私はあなたを好きにならないって……そう決めたの」
……とうとう口にしてしまった。
私の言葉に直喜は黙ったままだった。
「今まで散々弱い所を見せて……その度に優しくしてもらった事は感謝してる。でもね、もう嫌なの。耐えられないの」
「もう泣きたくない。これ以上、涙を流して弱い自分になりたくない。でも直喜といると泣いてしまうから……今は直喜の側にいるのがいちばん苦しい。……だからもう会わない。私が弱っていても……もう声をかけないで」
「……さよなら」
私はそれだけ言うと、その場から逃げ出した。