ベビーフェイスと甘い嘘

直喜は追いかけては来なかった。


自分から逃げたくせに、それが真実で彼の本音なのだと告げられたようで胸が軋んだ。


***


苦しくて、苦しくて、もうこれ以上走れない。



限界まで走って、逃げて、息苦しさを感じて無意識に立ち止まった場所は公園の側。



夏祭りの日に、直喜と別れたあの公園だった。



「ははっ、どんだけ意識して……」



笑いながら言ったつもりだったのに、瞳からは涙がポロリとこぼれ落ちた。



「ほんと……私って、嘘ばっかり……っ」



藍色の浴衣を着た姿を思い出す。



痛みの残る足に、涙を流した頬に触れた優しい手の感触も……全部昨日のことのように、はっきりと思い出せるのに。



愛しいと感じたあの日の事が、今思い出すとこんなにも切なくて、哀しい。




『好き』『愛してる』



私はしゃがみこんだまま、声を殺して泣いた。



口にする事のできなかった言葉を、心の中で何度も何度も繰り返しながら。


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