ベビーフェイスと甘い嘘
母から連絡が来て、出張中の拓実さんと同じく、病院に顔を出せるのは明日になりそうだ、と言うことで私は亜依を家に連れて帰る事にした。
「やだ!ママといっしょにいる!」
愚図る亜依を翔と一緒になだめて、病院の外に出た時にはもう夕方近くになっていた。
夏の名残はもう消えて、秋の気配を感じる寒々とした空気に身を縮めながら、駐車場までの道のりを三人で手を繋いで歩いた。
まるで、二人の子どもの母親のように。
『頑張ってたのに、可哀想ね』
ふと、灯さんから言われた言葉が頭を過った。
愛しい温もりに触れた今日だけは、この言葉を思い出したくは無かったのに……
灯さんと会ったあの日から、この言葉が頭から離れなくて、心はずっと溺れて息苦しいままだ。
早く何らかの結論を出さないといけない。
修吾とだって話合わないといけない。
だけど振り払っても、振り払っても、心の奥底からじわじわと滲み出すように灯さんの声が頭に響く。
このままじゃいけないって分かっているのに、全てどうでもよくなって、一歩も動けなくなってしまう。
無駄な努力をしていると、私を嘲笑っている二人の顔まで、目の前に浮かんできて……
ぶんぶん、と頭を振って余計な妄想を打ち消した。
「さ、亜依。翔。帰ろ。今日は何食べよっか?」