ベビーフェイスと甘い嘘
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「あれっ?茜さん!?茜さんだー!!」
芽依が退院する前日、荷物を引き取りに病院に来たものの、授乳中だと言われデイルームで待つことにした。
扉を開けた瞬間に、部屋の奥からこちらに向かって賑やかに手を振る人がいた。
名前も呼ばれているし、声だって聞き覚えがあるけど……
「まっ、鞠枝……さん?」
……で合ってるよね?
「そうですよ?どうしたんですか?……何か私の顔についてます?」
「茜さんはどうしてここにいるんですか?誰かのお見舞いですか?」
いや。付いてるって言うより、むしろ……
「ふっ。鞠枝、付いてるんじゃなくて色々足りないんじゃないかな?今素っぴんだろ」
鞠枝さん(と思われる人)の隣にいた男の人は、私の今の気持ちを的確に説明してくれた。
いつもふっさふさの睫毛のボリュームも足りなければ、眉毛の長さも足りないし、目も一回りほど小さく見える。
そっか!と言いながら明るく笑う鞠枝さん。おおらかな性格は、芽依ととてもよく似ている。
「妹が出産して明日退院だから、かさばる荷物だけ取りに来たの。鞠枝さんもお子さん生まれたのね。おめでとう。確か、男の子だったよね?」
「はい。一昨日の夜中に入院して、昨日の夕方にようやく。……もう、暫く子どもは産みたくないです」
いつも爛々と輝いている瞳が、出産を語った瞬間に死んだ魚のように澱んだ目に変わる。
……なかなか大変な出産だったようだ。