ベビーフェイスと甘い嘘

「名前はもう決まったの?」

「はい。玲(れい)です。母の名前から一文字取って」


「そう。玲子(れいこ)さん、喜んでるわね、きっと」


ベビーコットの中にいる赤ちゃんを見る。
拓真よりも少し大きくみえるその子は、丸い大きな目を開けて、おとなしく、じいっとこっちを見ていた。


そのはっきりとした目鼻立ちは鞠枝さんに似ているような気がしたけど、今の鞠枝さんと比べたら……実は、仙道さん似なのかもしれない。


「母を知っている方なんですね」


不意に、頭の上から声が降ってきた。


さっき鞠枝さんに声をかけられた時に、一緒にいるこの背の高い男の人は誰なのかな?と一瞬思っていたのだけど、鞠枝さんのインパクトが強すぎて、挨拶をするのをすっかり忘れてしまっていた。


「すみません、挨拶もせずに。私、サンキューマートで働いてます、柏谷茜と申します。玲子さんとも一緒に働いていました。……鞠枝さんのお兄さん……ですか?」



「はい。生方 馨(うぶかた かおる)です。鞠枝と……母がお世話になりました」



そう言ってお兄さんは穏やかに微笑んだ。


確かにその微笑んだ顔は、彼のお父さん……前オーナーにとてもよく似ていた。
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