ベビーフェイスと甘い嘘

「お兄ちゃん、お父さんに似てるでしょ?元は駅前店で店長やってて、今は北東北地区のエリアマネなんです」


エリアマネとはエリアマネージャーの略で、本社の社員のことだ。


「4年前にエリアマネージャーになりました。柏谷さんとは初めてお会いしますね」


確かに私がサンキューマートに勤め始めた時、店長は居なかった。


オーナーと副店長の鞠枝さんと、去年病気で亡くなったオーナーの奥さんの玲子さんはいたのだけれど、玲子さんには何も役職が付いていなかった。


だからと言って何事にも無関心な私は、どうして店長が居ないの?なんて疑問に思った事も無かったし、鞠枝さんにお兄さんがいたという話も初めて聞いた。


「そうだ。九嶋はちゃんと働いてますか?あいつもまだ夜勤帯で頑張ってるって聞いたんで」


無関心にもほどがあるよね……と自分の態度を反省していた時に馨さんの口から予想もしていなかった名前が急に飛び出して、私は一気に動揺した。


「…えっ!?はっ、はい。ちゃんと、働いてます、よ?私は、あのー、朝っ……日勤なんで。交代の時しか一緒にならないんですけどね。うん」


「……茜さん?」


鞠枝さんが何か言いかけたところで「茜ちゃーん、お待たせ!……あれっ?お友達??」と、絶妙なタイミングで芽依が登場した。


「いっ……妹が来たので失礼します!」と、半ば強引に話を切ってデイルームを飛び出した。
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