ベビーフェイスと甘い嘘
『お互いの心の傷をさらけ出して……楽になりたいと思わない?』
『一緒にいようよ。俺ならどこにも行かないし、茜さんだけしか見ない』
九嶋くんは私にそう言ってくれた。
私が今誰の事を考えていて、誰を想っているのかも分かっているのに、それでも私に想いを打ち明けてくれた。
私が今抱えているこの苦しみだって、九嶋くんはたぶん理解してくれる。
包み隠さず打ち明けたとしても、全て受け止めてくれるはずだ。
灯さんに女として何もかも敵わなかった苦しみも、直喜にさよならを告げて悲しみに溺れたままのこの心だって、たぶん彼なら救おうとしてくれる。
九嶋くんの気持ちに心の全てで応えられないのに、そんな打算的なずるい気持ちで向き合ってしまったら……
私は自分が楽になるほうを選んでしまう。
……だって、私は知ってしまった。
九嶋くんの包み込むような優しさを、
唇の温かさを、
心に押し込めた苦しみを。
きっと、もう一度触れてしまったら
私は自分で自分を止められなくなってしまう……