ベビーフェイスと甘い嘘
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『鞠枝ちゃんが連絡下さいって伝えてって言ってたけど……何かあった?』
仕事上がりのスタッフルームの中、私は九嶋くんから届いたLINEを見ながらため息をついていた。
『伝えて』っていうのは直接言ってっていう意味だろうけと……私が逃げちゃうから、こうしてわざわざLINEを送ってくれたんだろうな。
この前の事は遅かれ早かれ聞かれる事になるんじゃないのかなと予想はしていたけど、鞠枝さんから連絡が来るなら直接か、初花ちゃん経由で来ると思ってた。
「おい」
「……何?」
「通路に立つなよ。邪魔だ」
資材庫の前でぼんやりしていたら、店長に注意をされてしまった。
……ってか、この人今、私に向かって『おい』って言ったわね!
「また何か悩んでんのか?」
「余計なお世話」
『おい』と言われたのが面白くなくて、ジロリと睨みながら言葉を返した。
「あのさ、もういい大人なんだから。気まずくなったくらいで逃げたりとか、そういうの止めろよな」
「……それこそ、余計なお世話よ」
今度は九嶋くんの話?……ほんと、何もかもお見通しで腹が立つ。
「で?さっきからスマホをじっと見てるけど、どうかしたのか?」
「あ!そうだ。鞠枝さん、お子さん無事に産まれたの。ちょうど妹の出産と重なってー……って、怖いわよ」
鞠枝さんの話題で少しだけ和らいだ表情が『妹』という単語を聞いただけで氷のような表情に一変した。
顔が整ってるから、無表情が怖いんだってば。