ベビーフェイスと甘い嘘
微妙な空気を変えようと、別の話題を探す。
「それでね、病院で鞠枝さんのお兄さんにも会ったの。北東北地区でエリアマネージャーをしてるって。確か、カオルさんって言ったかな?店長、エリア会議とかで会った事無いの?」
生方という名字は珍しいから、面識は無くても名前くらいは知っているかもしれない。そんな軽い気持ちで言った一言に、店長は何故か顔を曇らせた。
「それ、誰かに話したか?相沢には?……してないよな。シフト最近被ってないもんな」
「あのさ、生方馨に会ったって相沢には絶対に言うなよ。あ、あと茂木にも。広まるからな」
「えっ?どうしー」
「理由は聞かないでくれ」
質問は受け付けない、とばかりに強引に話を切って、店長は店舗のほうへ戻って行った。
「変な人……」
店長の態度に首を傾げながら再びスマホに視線を戻すと、スタッフルームの戸が開いた。
「茜さん!今度鞠枝さんの所に赤ちゃん見に行きましょうね、ってさっき言うの忘れてました。初花さんと3人でおいでーって鞠枝さんからお誘いLINEもらってたんで。シフト、全員休みの日ってありますかねー」
あぁ……唯ちゃん経由でも誘われた……
こうなると、流石に無視できないし逃げられない。