ベビーフェイスと甘い嘘
「……茜さん、何だか変わりましたね。前はスタッフ同士の事に絶対関わらなかったですよね」
確かに、鞠枝さんの言う通りだった。
「まぁ……ね。素の自分でいたほうが楽だって最近気がついたの」
関わらないほうが楽だから、今の仕事仲間とは、わざと一線を引いた付き合いをしていた。
鞠枝さんは、一緒に働いていた時から、そんな私のずるい心を見抜いていたのだろう。
いつも作り笑顔で働いていたから、よく分からない人だと思われていたのかもしれない。
「茜さんを変えたのは九嶋ちゃんですか?……うーん、違うなぁ。九嶋ちゃんが明るくなったのは、茜さんの影響だと思うけど」
その呟くような言葉に心臓がドクン、と音を立てて跳ね上がる。漆黒の瞳が一瞬頭をよぎった。
九嶋くんが明るくなったって……確かヤスさんもそんな話をしていたけど……
「……私、何もしてないんだけどな」
私は、そんな誰かに影響を与えるような、大層な人間じゃない。
「うーん……でも九嶋ちゃんは茜さんの事、好きでしょう?だからだと思いますよ。好きな人には、カッコ悪い所は見せたくないし、笑顔でいたいし、いてもらいたいじゃないですか」
「……ぅっ」
何でも無いことのようにサラリと言われて、頬の辺りが熱くなっていく。