ベビーフェイスと甘い嘘

「……茜さん、何だか変わりましたね。前はスタッフ同士の事に絶対関わらなかったですよね」


確かに、鞠枝さんの言う通りだった。


「まぁ……ね。素の自分でいたほうが楽だって最近気がついたの」


関わらないほうが楽だから、今の仕事仲間とは、わざと一線を引いた付き合いをしていた。


鞠枝さんは、一緒に働いていた時から、そんな私のずるい心を見抜いていたのだろう。


いつも作り笑顔で働いていたから、よく分からない人だと思われていたのかもしれない。


「茜さんを変えたのは九嶋ちゃんですか?……うーん、違うなぁ。九嶋ちゃんが明るくなったのは、茜さんの影響だと思うけど」


その呟くような言葉に心臓がドクン、と音を立てて跳ね上がる。漆黒の瞳が一瞬頭をよぎった。


九嶋くんが明るくなったって……確かヤスさんもそんな話をしていたけど……


「……私、何もしてないんだけどな」


私は、そんな誰かに影響を与えるような、大層な人間じゃない。


「うーん……でも九嶋ちゃんは茜さんの事、好きでしょう?だからだと思いますよ。好きな人には、カッコ悪い所は見せたくないし、笑顔でいたいし、いてもらいたいじゃないですか」


「……ぅっ」


何でも無いことのようにサラリと言われて、頬の辺りが熱くなっていく。
< 404 / 620 >

この作品をシェア

pagetop