ベビーフェイスと甘い嘘
鞠枝さんは、そんな私の気持ちを理解してくれたのだろう。
大きくうなずいた後で、「ところで、相澤さんは『大切な人』じゃないんですか?」と聞いてきた。
だいぶお世話になってはいるけれど……今に至るまでのいろんなやり取りにだいぶ怒りを感じていた私は、「うん。店長はどうでもいい」と冷たく言い放った。
そんな私を見て、鞠枝さんはゲラゲラと楽しそうに笑った。
「分かりました。私の知ってる事で良ければ、お話しますね。ちょっとだけ長い話になりますけど……あと、今日の話はまだ初花ちゃんには言わないでください。お願いします」
そう言うと、鞠枝さんは立ち上がり、棚から何冊かアルバムを取り出して、パラパラと捲り始めた。
そして「見てください」と私に一冊のアルバムを手渡した。
「この当時のエリアマネが、ほんっとチャラい人だったんですよ。初花ちゃんのことが大好きで、本社に提出する店内のレイアウト写真撮るついでにこうやってみんなの写真を撮って、『後で持って来るからねー』……なんて言って、それを口実にまた初花ちゃんに会いに来て」
本当にうっとおしかったなー、と鞠枝さんは眉を寄せた。
スタッフを口説くために店に来る社員なんて最低ね……と言いかけて、鞠枝さんの旦那さんの善明(よしあき)さんも、うちの店のエリアマネだったことに気がついて、慌てて言葉を飲み込んだ。