ベビーフェイスと甘い嘘
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「今度は夜に会おうよ」
別れ際、ナオキはそう言ってきた。
主婦を何だと思っているのよ。
「夜に出られるわけないじゃない」
呆れながらそう言うと、「これは『決定』だから。……仕方ないな。日にちと時間だけはアカネさんが決めてもいいですよ」と、強引に約束をさせられてしまった。
断るとどうなるか分かってるよね。と明らかにその綺麗な目が語っている。
「……悪魔」
呻くようにそう呟くと、
「小悪魔に言われたくないなぁ」
ナオキはまた薄い口唇の端をキュッと持ち上げて不敵な笑い方をした。
誰が小悪魔よ!
自慢じゃないけど男を誘ったことなんて……一度もないんだから。
「じゃあ、連絡待ってます。あ、今度会うときはデートですから手抜きしないでくださいね」
失礼な言葉に睨んだ私の視線を気にすることもなく、ナオキは来た時と同じように笑顔で手を振って帰って行った。
確かに結婚式の日は、ちゃんとした格好をしていたし、化粧もきちんとしていたけど……
コンビニは忙しいから化粧直しをする時間も無いし、どうせこんなアラサー女の顔面なんて誰も気にしないでしょ、と化粧はさぼりがちだった。
今日だって翔の幼稚園の送りだけだからと、朝にささっと済ませてしまったのだ。
どんだけナオキのことを『男』として見ていないんだ、と思わず笑いが込み上げてきたけど、一番問題なのは『女』として自分を綺麗に見せることを忘れかけている自分なのかもしれなかった。