ベビーフェイスと甘い嘘

「初花ちゃん。……キスするんなら、見つからない場所でしなさいね」


「えっ……」


「唯ちゃんがスタッフルームに入った時、資材庫であなた達がキスしてるの見えちゃったんだって」


恥ずかしさもあっただろうけど……驚いて固まったままで、首まで真っ赤になった彼女を見て、少なからず店長への気持ちはあるんじゃないかと思った。


鞠枝さん。……たぶん大丈夫だよ。


まだちゃんと意識はしてないかもしれないけど、初花ちゃんは新しい恋に向かって踏み出そうとしている。


『初花ちゃんにも、しあわせになってもらいたいんです。それは私にも……もうお兄ちゃんにもできない事だから』


鞠枝さんはそう言っていた。その理由はすぐに理解できた。


病院で会った時、カオルさんの左手にエンゲージリングが嵌まっていたのを見た覚えがあったから。


ーー愛情は永遠じゃない。


私も、その気持ちは痛いほど分かる。


どんなに想っていたって、人の気持ちは変わってしまう事もあるんだって事を。



「……茜さん、私から話すまでは何にも聞かないでもらえませんか? 唯ちゃんは……何言っても無駄そうなので、夕勤まで話広がらないように釘刺してもらうだけでいいです」

< 415 / 620 >

この作品をシェア

pagetop