ベビーフェイスと甘い嘘
「初花ちゃん。……キスするんなら、見つからない場所でしなさいね」
「えっ……」
「唯ちゃんがスタッフルームに入った時、資材庫であなた達がキスしてるの見えちゃったんだって」
恥ずかしさもあっただろうけど……驚いて固まったままで、首まで真っ赤になった彼女を見て、少なからず店長への気持ちはあるんじゃないかと思った。
鞠枝さん。……たぶん大丈夫だよ。
まだちゃんと意識はしてないかもしれないけど、初花ちゃんは新しい恋に向かって踏み出そうとしている。
『初花ちゃんにも、しあわせになってもらいたいんです。それは私にも……もうお兄ちゃんにもできない事だから』
鞠枝さんはそう言っていた。その理由はすぐに理解できた。
病院で会った時、カオルさんの左手にエンゲージリングが嵌まっていたのを見た覚えがあったから。
ーー愛情は永遠じゃない。
私も、その気持ちは痛いほど分かる。
どんなに想っていたって、人の気持ちは変わってしまう事もあるんだって事を。
「……茜さん、私から話すまでは何にも聞かないでもらえませんか? 唯ちゃんは……何言っても無駄そうなので、夕勤まで話広がらないように釘刺してもらうだけでいいです」