ベビーフェイスと甘い嘘

雑貨店のショーウィンドーに映る自分の姿を見る。
とかしただけのショートカット。化粧っ気のない顔。ジーンズにカットソーのシンプル、と言うよりは全く構っていないのが丸分かりの格好。


ナオキが今度はデートだから、と念を押してきたのが何となく理解できた。

メークに気をつけて、服装だってそれなりのものにしないといけない。そんな気づかいは何年もしていなかった。


今度はぐりぐりにアイラインを引いて、つけまつげをバサバサいわしてドレスでも着て会ってやろうかしら……。

会うことが決定だという選択に抗うこともせず、こんな呑気なことを考えている自分は……やっぱりどこかあの日からおかしくなっているのだと思う。


***

『明日18時。21時半までには解放して』

そんなLINEを送信したのは木曜日の夕方。

わざわざ前日に送ったのは、急な誘いなら私のためにわざわざ時間を作るのが面倒で、断ってくれるかもしれないという狙いもあった。

しかし間髪入れずに『OK』と、あのふざけたウサギのスタンプが返って来た。


……暇人なんだろうか。あの男は。



「明日の夜、出掛けるね」

金曜日の夜に出かけると言うのに、修吾は何も詮索するような言葉を言わなかった。

結婚式で会った時、裕子さんと千鶴ちゃんとご飯を食べに行く約束をしてたの。その言葉はちゃんと彼の耳に届いているのだろうか。
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