ベビーフェイスと甘い嘘
ずっとあなたになりたかった
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「翔ー、亜依ー、そろそろ出るよ。二人とも水筒持ってね」
「はーい。ねぇ、ママ、これなぁに?ぼくもってもいい?」
「翔、こっちはいいから亜依の荷物手伝ってあげて。亜依、忘れ物は無い?」
「ないよー。ママ、たくま、いってきまーす!」
大きく手を振りながら、菫色の体操着を着た亜依が玄関を駆け出して行く。
「みんな、行ってらっしゃい。茜ちゃん、亜依のこと、よろしく頼むねー」
芽依が応えるように、抱っこしていた拓真の手を持って、ばいばいをするように軽く振った。
今日は、亜依の幼稚園の運動会だ。
芽依は退院したばかりだから、今日は私が亜依の母親代わりだ。
「……すみません、無理言って来てもらって」
拓実さんが申し訳なさそうに頭を下げる。
「大丈夫ですよ。今年はうちの幼稚園と日にちが違いましたから。芽依が一緒に来られなくて、残念でしたね」
芽依も予定日が早まらなかったら、たぶん一緒に運動会を楽しむ事ができたと思う。