ベビーフェイスと甘い嘘
「写真は私に任せて、拓実さんはちゃんとビデオ係を全うしてくださいね。ちゃんと撮れて無かったら、後で芽依に何て言われるか分かりませんよ」
ふふふ、と笑いながらそんな事を言ったけれども、内心では翔の事がちょっとだけ心配だった。
ーー先週の翔の幼稚園の運動会……私は、修吾に声を掛けなかった。
親しく話す友人も居なかった事が幸いして、父親がいないことをいちいち詮索して来る人はいなかったけど、二人きりでお弁当を広げていた私達は、少しだけ目立っていた。
今まで急に家を出た事も、パパと一緒に暮らせない事にも何も言って来なかった翔が、運動会の前の日に「あしたパパはこない……よね?」と確認するように聞いてきた。
今日だって、自分の運動会には家族が揃わなかったのに、亜依の運動会に私が母親代わりで行こうとしている事を、本当はどう思っているのか……傷ついていないのか、そればかりがずっと気になっていた。