ベビーフェイスと甘い嘘
「じゃあ、僕はあっちの方で撮ってますから」
拓実さんがビデオを構えて走っていく。
開会式に徒競走……父親なら、こうして始まりから終わりまで我が子の姿を収めようとするのが『普通』なんだろうな。
我が家のビデオ係はいつも私。写真も撮ってもらえないから、いつもデジカメを首にぶら下げたままビデオを構えてた。
それが『普通』だと思っていた。
「……あ、いけない。次、亜依の番だ。翔どうする?」
亜依の徒競走の出番が近づいていた。
「……ぼく、あっちであそんでる」
翔は、不機嫌な表情のまま遊具のほうへ走って行ってしまった。
今は下手に何か言うよりも好きにさせたほうがいい。
はぁ、とため息が出そうになるのをぐっと堪えて、私はゴールテープの見える方を目指して歩いて行った。
***
「パパー!おばちゃーん!あい、いっとうだったよー!」
きらきらと音が聞こえてきそうなほど眩しい笑顔で、亜依が駆け寄ってくる。
「見てたよー。亜依、凄かったね」
ぴょんぴょんと跳び跳ねながら飛び込んできた小さな身体をしっかりと受け止めた。