ベビーフェイスと甘い嘘
「おばちゃん、かけるは?」
「……あー、さっきまでいたんだけどな……ひろくんのかけっこ見に行っちゃったのかな。ほら、みんな集まってるよ。亜依も行かないと」
私の足に抱きつきながらキョロキョロと辺りを見回す亜依に、とっさに嘘をついてしまっていた。
「パパ、おばちゃん、またあとでねー」
クラスのみんなの列に亜依が戻ったのを見届けてから、遊具の方へと目を向ける。
「……えっ?」
徒競走が始まるまでは、下を向きながらブランコを漕いでいたはずなのに……
「……翔?」
翔が、いない。
慌てて辺りを見回す。
一人だけ目立たないように、周囲の目が翔に向かないようにと、亜依の体操服と同じような色合いの服にしたのがかえってまずかったのかもしれない。
遊具のある広場、校舎の陰、グラウンドの脇、トイレの近く……
しばらく戻らなかったから、迷ってしまって他のクラスの所にいるのかも……
走り回って心当たりを全部探したのに、見つからない。