ベビーフェイスと甘い嘘
拓実さんは、ビデオカメラをトントンと叩きながらにこやかに笑った。
「……ありがとうございます」
……私は、この子の何を見ていたんだろう。
翔の笑顔を守りたい。そう思っていたはずなのに。
いつの間にか、私は翔の笑顔を曇らせていた。
お弁当を食べている間も午後の競技も、翔はもう私達の側を離れる事なくずっと楽しそうにしていた。
「帰りに、アイスキャンディー買って帰りましょうか」
『ウサミ』がいつも運動会の時にはアイスキャンディーを売りに来ているのだと、拓実さんが教えてくれた。
そっか。あの藍いパラソルは、『ウサミ』のエプロンと同じ色なんだ。
翔と亜依はアイスキャンディーを楽しみにしていたけど、運動会が終わった途端にパラソルの前には長蛇の列ができてしまっていた。
結局アイスキャンディーを諦めて、私たちはサンキューマートでアイスクリームを買って家路についた。
「いつもは、あんなに混まないんですけどね。やっぱり売る人が男前だと、売り上げも違うんですかねー」
拓実さんは呑気にそんな事を言っていたけど、私はなんだか胸がもやもやとして、落ち着かない気持ちになった。