ベビーフェイスと甘い嘘

自分で『もう会わない』と言ったくせに、話せないのを残念に思うなんて間違ってる。


……だけど、勝手だけど『ありがとう』って言いたかった。



***

みんなが寝静まってから、こっそりとビデオを見た。


「ここに置いておきますから」



そう言ってリビングの棚にビデオカメラを置きながら笑った拓実さんは、私がみんなと一緒にこれを見られないと思ってしまった気持ちを察してくれていたのかもしれない。



ポタッ。ポタッ。


「……うっ……っく」


どんなに唇を噛み締めても、一旦溢れ出した涙は止まらなかった。


せめて嗚咽が溢れ落ちてしまわないように、必死に口元を手で押さえる。



……やっぱり……やっぱり『ありがとう』って言えばよかった。



翔の事だけじゃない。私も今日はいろんな事に気づかされた。


何も考えず、ただ日々を過ごすのは確かに楽だ。


逃げれば逃げるほど、現実を知れば知るほど悲しみに囚われて溺れて、息もできないほど苦しくなるから。


ーーでも。


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