ベビーフェイスと甘い嘘
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「灯さん、来てくれてありがとう」
頭を下げた私を、灯さんは怒りを含んだような表情で見ていた。
なぜ自分はこの場所に呼ばれる方の立場なのか。そんな苦々しい気持ちでいるに違いなかった。
いつもスタイルの良さを見せ付けるようにジャストサイズの服を着ている彼女が珍しく、ふわっとしたシルエットのワンピースを身に纏っている。
お腹を締め付けない服装をしている。それだけで自分が優位に立っているような気持ちになっているのだろうか。
「どうしてあなたに『ありがとう』なんて言われないといけないの?!それに、ここはーー」
「ここは修吾の家ですけど、私と翔の家でもあるんです。だから『来てくれて』ありがとう、です」
反論しかけた灯さんの言葉を遮った。
三ヶ月ぶりに入った自宅には、私の見覚えの無い物が沢山増えていた。
約束の時間より少しだけ先に入って待っていたのは私がそうしたかったからだけど、何気なく開けた靴棚に堂々とハイヒールのパンプスや翔よりもサイズの大きな男の子用のスニーカーが置かれていたのを目にした時には、もう隠すつもりも無いのかと正直呆れてしまっていた。