ベビーフェイスと甘い嘘
彼女のその言葉を聞いて、それまで黙っていたその人物が灯さんに向かって口を開いた。
「そうやって冷静に話し合いが出来ないから、私が呼ばれたんですよ。こんな状況だとどこかの店で会うって訳にもいかないですしね。……茜さんも。あなたがいちいち煽っていたら、話し合いにならないでしょう」
「……すみません。店長」
「『茜さん』って呼ばれてるの?ずいぶん店長さんと仲良しなのね」
「普段は柏谷さんって呼んでますよ。私以外全員『柏谷』さんなんだから、名前で呼ばないと話がややこしくなるでしょう」
灯さんの嫌みのこもった言葉もさらりと受け流す店長にさすが、と感心する。
灯さんと、修吾と、話し合いをしようと決心した時、二人きりや三人で話し合いをするのは危険だと思った。
冷静で客観的な第三者の立場でその場に居てもらえる人……そう考えたら、私の頭の中には店長しか浮かばなかった。
***
「疲れているのに、ごめんなさい。エリア会議だって近いのに……」
「いや、大丈夫。柏谷さんが俺に『相談したい事がある』なんてよっぽどの事だろ。で、どうしたんだ?」
運動会の次の週、私は夜勤明けの店長を捕まえてマンションの自分の部屋へと連れて来ていた。
「私……夫と、灯さんと話し合おうと思ってるの。できれば、その場に立ち会って欲しいと思って」
「でも、いいのか?あんた迷ってただろう?」
その言葉に思わず目を見開いた。
……ほんとに、勘の鋭い人だ。