ベビーフェイスと甘い嘘
結婚式の日、酔った私はタクシーに乗るのも億劫になって、見かねた二人が式場に隣接するホテルに部屋を取って休ませてくれた。
目覚めたら明け方で慌てて帰宅した。
それが修吾に話した朝帰りの顛末だ。
何処で何をしていたのかは後で聞くよ、そう言っていたくせに問い詰められることも疑問を持たれることもなかった。ただ「そうか」と一言言われただけだ。
そして私はまた嘘をついた。
嘘をついたら、その嘘を隠すために、またひとつ嘘を重ねなければいけない。
嘘はどんどん積み重なって大きく膨らんでいく。
膨らんだ嘘は言葉にしようとすると喉に引っ掛かってなかなか口から出て来なくなる。
悪循環だ。
それでも私は嘘をつき続ける。
私はもう……誰かを想って嬉しくなることも、不安になることもしたくない。
この穏やかな日々を手放したくはないのだ。
例えその穏やかさが全部嘘で塗り固められていて、見えないところが歪んでいたとしても。
私はその歪みすらも『見えないよ』と嘘をつく。