ベビーフェイスと甘い嘘

そんな時に……直喜は私に優しさをくれた。温もりをくれた。

直喜と一緒にいる時だけは、私は涙を流す事ができた。

溺れていつも息苦しかった私の心は、涙を流す事で救われた。


その優しさが全部嘘だったとしても……それでも私は満たされた。


だから、その腕にすがりたくなってしまった。知ってしまった温もりを、優しさを手放したくはなかった。


自分だけが彼に愛されたいと願ってしまった。


直喜を愛してしまうことで、また新しい涙で心が溺れてしまうと分かっていても。


灯さんが言う身勝手な言い訳が通用するんだったら…………私だって、悪くない。


私は、胸の奥にずっと閉じ込めていた言葉を取り出した。


これは、修吾と灯さんへの決別の言葉。



「私はずっと灯さんになりたかった。一度でいいから修吾に愛されたかった」



***

頬に涙の痕を残したままで、灯さんはニヤリと笑った。


「私って、茜さんにとって本当に邪魔な存在だったのね。私になりたいだなんて……なれる訳がないでしょう。そんな綺麗事並べてないで、もっと私の事を罵ればいいじゃない。私、嫌な女でしょ?憎いでしょ?……それでもね、修吾くんが愛してるのは私なの」


「あなたみたいな地味で不細工で何の取り柄の無い女が、何年か夢見れただけでも良かったじゃない」


「それに、ちょっとだけ気分良くなかった?嘘でも噂の主役になれて。あの『ウサミ』の嫁が乗り込んで行った時なんて最高だったよね。ほんと、ドラマみたいだった!あんな有名な人が、あなたなんか相手にするわけないのにね」
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