ベビーフェイスと甘い嘘
ぐっ、と押し黙ってしまった灯さんに向かって、店長は唇の端をくっと上げて嘲るように笑った。
「……ふっ、図星か。俺はな、あんたみたいな、まず男を頼って生きていこうって考えるような女は大嫌いなんだよ」
「この人はな、不器用な生き方しかできない人だ。でも不細工じゃないし、取り柄だってある。仕事ができる人だし、俺は信頼している。あんたが思っているよりもずっと強い人だよ」
「それに、大切な存在を必死に守ろうとしている。楽して生きていく事しか考えていないような人よりも、何倍も魅力的だ」
「そういう事だから、茜さんは安心して離婚したらいい。茜さんも翔くんも、あなたがいなくても生きていけますよ。もちろん、あなたの言うことだってもう聞く必要も無い」
「……そろそろ出てきたらどうですか?茜さんがアカリさんにあなたと別れますと言ったら、あなたのタイミングでいつ出てきてもいいとお話しましたよね。……それとも、目の前で起きている事が信じられなくて、逃げ出したくなりましたか?」
店長は、ぐるりと辺りを見回して、リビングの奥のドアに向かって声をかけた。
店長の声は低めだけど、よく通る声だ。
その有無を言わさない迫力に観念したのだろうか……修吾の寝室へと続くドアがゆっくりと開いた。