ベビーフェイスと甘い嘘
「……えっ」
最初に驚きの声を上げたのは、灯さんだった。
私だって、驚いた。
「修吾……」
まさか今までの会話を、修吾が全部聞いていたなんて……
胸の鼓動が早くなる。
喉の奥からぐっとせりあがってくる吐き気を辛うじて押さえる事が出来たのは、修吾が私の方は見向きもせずに灯さんに向かって話かけたからだった。
少しだけ青ざめた顔色で現れた修吾は、リビングに入るなり「……灯、俺の事は愛してないのか?……ただ近くにいたから、都合良く利用しただけか?」と言った。
やっぱり、この人は灯さんの事しか見ていないのね……
同じ事を思っているのだろう。私は呆れた表情の店長に向かって首を横に振ってから、二人に向かって声をかけた。
「修吾。あなたが灯さんと悠太くんとここで一緒に暮らすのは構わない。だけど、きちんとけじめはつけて。……私と別れてください。私が言うことじゃないかもしれないけど、お義母さんとも逃げないでちゃんと話し合って」
「灯さんの子どもだってすぐに産まれてくるのよ。ずっとこのままって訳にはいかない。……私の事なんてどうでもいいくせに、あなたが私に『絶対別れない』って言ったのは、翔を手放したくなかっただけでしょう」